うみみんの大冒険

作品背景

「うみみん」は私の地元である平塚の海岸出身のウミガメです。

平塚にはウミガメが出産に来ています(最近は砂浜の状況から出産できていない様子。ただし、来てはいる)。

そんなウミガメが来る平塚の海岸の魅力を伝えていこうということで、平塚の画家・江口友子さんが考えたキャラクターが「うみみん」です。

本作は、その「うみみん」をさらに幅広い人に知ってもらうために、絵本にしてはどうかと思い、私が考えたお話です。絵本や紙芝居を想定しているため、全編かな書きとなっています。

今のところ、すぐに絵本等になる予定はありませんが、この作品が「うみみん」が広がっていくきっかけになればいいなと思っております。

本編

うみみんの大冒険(作・西海ハシル)

ある まんげつの ひの ひらつかの かいがん

うみみんが すなから とびだしました

「ぷはぁ〜! やっと そとに でられたぞ〜」

まんまるく ひかる おつきさまが うみみんを おでむかえ してくれました

「やあ、はじめまして、うみみん」

「はじめまして!」

「これから、うみみんには、だいぼうけんが まってるぞ」

「わぁ〜! たのしみだな~!」

「まずは うみまで あるいて おいで」

「わかった!」

うみみんは おつきさまの いうとおりに あるきはじめました

まわりには うみみんの きょうだいたちがいて、おなじように おつきさまの ほうへ あるいていました

すると、あるきょうだいが うみみんに はなしかけてきました

「ねえねえ、うみみん」

「なーに?」

「うみまで かけっこ しようよ」

「いいよ~!」

にひきは いきおいよく うみへ むかって はしりはじめました

そのときです

うしろの ほうから パチンパチンと おとが きこえました

うみみんは おどろいて うしろを ふりかえりました

そこには おおきな かにが いました

おおきな からだに するどいはさみ

「おいしそうだなあ!」

かには はさみを パチンパチンと ならしながら うみみんに おそいかかりました

「たいへん! はやく にげなきゃ!」

うみみんは いそいで うみに むかいました

かには はさみを うみみん めがけて ふりおろしました

うみみんは とっさに うみではなく みぎへ むかって はしりました

すると かにの はさみは うみみんの からだを かすって すなはまに ささりました

「しまった! すなに ささって しまった!」

かには はさみを すなから ぬくのに くろうしていました

おつきさまが 「うみみん いまのうちに にげるんだ!」と いったので

うみみんは あわてて うみへ またはしりました

うみみんは いっしょうけんめい はしりました

ほかの きょうだいとの かけっこなんて すっかり わすれていました

あの ぱちんぱちんという はさみの おとが

いろいろな ところから きこえます

うみみんは たくさん はしりました

「はあはあ……あと どれくらいだろう?」

そうおもったとき うみみんの あしに なみが かかりました

「うみだ!」

うみみんは うれしくなって いきおいよく うみへ はいりました

「うみみん おめでとう。うみみんが いっとうしょう だったよ」

おつきさまが うみみんに こえを かけてくれました

「ありがとう おつきさま!」

うみみんが うしろを ふりかえると きょうだいたちは やってきていません

しばらく すると やっと なんびきかの きょうだいが うみに やってきました

「うみみんたち そろそろ しゅっぱつの じかんだよ」

おつきさまが うみみんたちに いいました

うみみんが

「まだ きていない きょうだいが たくさんいるよ」

というと

「うみみん ウミガメの あかちゃんはね とてもよわいから たくさんは うみまで くることが できないんだよ」

とおつきさまが おしえてくれました

「うみみんが うみまで これたのは きせきみたいな ものなんだ。だから じぶんの ことは たいせつに するんだよ」

おつきさまは そういうと

「さあ みんな うみの おきへ いくんだ!」

と ごうれいを かけました

うみみんたちは それを きくと いっせいに うみの おきの ほうこうへ およぎはじめました

「うみみん ここで おわかれだよ!」

いっしょに およいでいた うみみんの きょうだいが いいました

「もう? まだ いっしょに いたいなあ」

うみみんが いうと きょうだいは くびを よこに ふりました

「わたしたちは みんな ひとりで いきていくんだって」

「ええ~ さびしいよ~」

「でも これからは どこへ だって いけるよ。わたしたちは じゆうだよ」

きょうだいは そういうと てを ふりました

「うみみん またひらつかで あおうね!」

「うん! また あおうね! やくそくだよ!」

きょうだいが うみみんから はなれていきます

ほかの きょうだいたちも きがつけば うみみんの そばから はなれていました

さいしょは きょうだいたちが たくさんいたのに

いまは うみみん ひとりです

うみみんは うみまで これなかった きょうだいたちを

はなればなれになった きょうだいたちを おもいだして

さびしくて そのひの よるに たくさん なきました

「うわ~ん さびしいよ~」

それでも うみみんは いっしょうけんめい およいで

ひらつかから ずっと はなれた うみまで およぎつづけました

そんな うみみんを おつきさまは しずかに てらしつづけました

ーーー

そのよるから なんねんも たった あるひ

うみみんは ずいぶんと おおきく なっていました

「ふふふ くらげ おいしいな~」

うみみんは たいへいよう という ひろいひろい うみに いました

ひらつかより ずっとあったかい うみで

うみみんは のんびりと せいかつしていました

なみに ゆられて ボーッとしたり

ふかく もぐって ダイビングを たのしんだり

まいにち たのしく せいかつ していました

そんなとき うみみんに ちかづく かげがありました

「ん? なんだろう?」

そのかげは すごい はやさで うみみんに ちかづいてきました

「おいしそうな ウミガメだ~!」

「わあ! サメだ!」

そのかげは おおきな サメでした

サメは おおきく くちを あけて うみみんを たべようと してきます

「にげなきゃ!」

うみみんは からだを くるくると まわしながら サメの こうげきを かわします

「このままじゃ たべられちゃう!」

うみみんは あのよるの かにから にげたときの ことを おもいだしました

「もう おとなに なったんだ! あのとき みたいには ならないぞ!」

うみみんは サメが うしろを むいたすきに サメの しっぽに かみつきました

「ぎゃあ! いたい!」

サメは いちど うみみんから はなれました

「よくも やってくれたな~! こんどこそ 食べてやる!」

サメは おこったように また うみみんの ほうへ むかって きました

「はやく サメから はなれないと!」

うみみんは いそいで サメとは はんたいの ほうこうへ およぎます

でも サメの ほうが およぎが はやいので

このままでは おいつかれてしまいます

「どうしよう~! サメ はやすぎるよ~」

サメの おおきな くちが うみみんの あしに とどきそうです

そのとき

「もうやめてやれよ」

と こえが しました

うみみんが こえが したほうを むくと

そこには イルカが たくさん いました

「そうだ そうだ やめてやれ」

「しっぽ かまれたんだから サメの まけだ!」

「うるさい! おれさまに もんく いうな」

サメは イルカに いいかえしました

「サメの くせに なまいきだ! みんな いくぞ!」

イルカは むれに なって サメのほうへ とっしん していきました

「わあ! やめろ!」

イルカたちは サメを どんどん うみみんから はなしていきます

「すごい すごい!」

うみみんは イルカたちに はくしゅを おくりました

「わかったよ! もう きょうは やめる!」

サメが ついに ねを あげました

「ウミガメ うんが よかったな! じゃあな!」

サメは うみみんから はなれていき あっというまに すがたが みえなくなりました

「ありがとう!」

うみみんは イルカたちに おれいを いいました

「サメに かみつくなんて すごい ゆうきだったからね。おうえん しちゃったよ」

イルカは てれながら いいました

「きみの なまえは?」

「うみみんだよ!」

「うみみんは とっても つよいんだね」

「あかちゃんのとき おつきさまに うみまで こられたのは きせきみたいなものだから じぶんを たいせつに しなさい っていわれたから あきらめちゃ いけない とおもって」

「へ~ そうなんだ」

それから うみみんは しばらく イルカと いっしょに およぎました

すると

「そういえば ぼくたちが あった ウミガメは そろそろ うまれたところの ちかくに もどるんだって いってたよ」

と イルカが いいました

「ほんとう? そうしたら もどりたいなあ。どこに もどるか いってた?」

「えーとね たしか ひらつか だったよ」

「ひらつか!? そこは うまれたところだ!」

「じゃあ きょうだい かもしれないね」

「ひらつかで またあおうねって やくそくした きょうだいが いるんだ~」

「そうなんだ。そうしたら うみみんも かえるの?」

「もうおとなに なったし もどりたい!」

うみみんは イルカに せんげんしました

「よし きめた! ひらつかに もどる!」

イルカは それを きいて はくしゅ してくれました

「かえりみちは わかるの?」

イルカが きいてきました

「うん!ウミガメにはね かえりみちの ちずが あたまの なかに はいってるんだ」

「すご~い それなら あんしんだね」

「よ~し かえるぞ~!」

「そうしたら ぼくたちとは ここで おわかれだね」

イルカが いいました

「そうかあ さびしいけど イルカたちは ここが おうちなんだもんね」

「うん。うみみんは サメにも まけない つよさが あるから きっと だいじょうぶだよ」

「ありがとう!」

「きをつけてね~!」

イルカたちが みんなで うみみんに てを ふってくれています

「ばいばーい!」

うみみんも おおきく てを ふりかえしました

うみみんは また ひとりぼっちに なりました

でも ないたりは しません

これから きょうだいたちに あえるかもしれない

それを かんがえると うみみんは たのしみで しかたないのです

うみみんは ふるさとの ひらつかを めざして およいでいきました

おしまい