作品

I want you to listen…

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 電車で座るところを探して車両を渡り歩いていた三枝悠太は、席に座っていた大学の同級生である早見楓に出くわした。


楓「あ、三枝じゃん」
悠太「よっ。帰り?」
楓「うん。ここ座る?」
 楓がポンポンと隣の席を叩く。
悠太「そうする」
楓「音楽聞いてるの?」
悠太「え? ああ、そうそう。イヤホン邪魔だな。ちょっと待って」
楓「……何聞くの?」
悠太「うーん、まあ邦ロックを色々」
楓「フェスとか行くの?」
悠太「そこまではしないかな。特定の誰かが好きってわけでもないし」
楓「ふーん」
悠太「何聞いてんのかな、俺」
楓「何で分かんないのよ」
悠太「いや、ホントにテキトー聞いてるからさ。アプリでお気に入り見てみるか」
楓「……確かにロック多いね。あれ、でもこの人ロックじゃなくない?」
悠太「あ~、これはまあ、色々」
楓「なに、気になるんですけど」
悠太「いや、前好きだった人が好きだったんだよ。好きな人の音楽とか聞いとけば、話のネタになるし」
楓「めっちゃ打算」
悠太「うるさいな。そのときは必死だったんだよ」
楓「で、付き合えたの?」
悠太「いや、フラレた」
楓「フラレたんかーい」
悠太「そんなテンションで言うなよ……」
楓「ごめんとか言われたほうが気まずくない?」
悠太「……確かに」
楓「ま、色々あるよね」
悠太「そうそう色々……って、なんで俺のスマホ」
楓「ついでにわたしのお気に入りも入れとこうかと思って」
悠太「何でだよ!」
楓「話のネタになるよぉ〜」
悠太「十分あるだろ」
楓「……よし、これだ」
悠太「早見の駅って次だろ? はよ返せ」
楓「はいはい。ちょうど駅到着。じゃ。聞いといてよね」
悠太「そんな勝手な……。また!」

 悠太がイヤホンを再度つけて、流した音楽は楓の入れた曲だった。

悠太「音速ラインの『ポラリスの涙』……」

 聞き始めたとき、悠太はホームを歩く楓と目があう。楓が微笑んだように見えて、すぐ見えなくなった。

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